釣りの世界ではナイロンテグスとリールの発明が「文明開花」であると云われます。

あのノーベル文学賞、アーネスト・ヘミングウェイの名作「老人と海」に登場するサンチャゴ爺さんのヒットしてから銛を打つまで48時間の死闘を、そのボートから仕掛け、餌にいたるまで細かく解析して現在の文明の利器であるリールのありがたさを理解することは、これからあなたが直面するであろう50kg越えのマグロをいかにランディングするかに通じるものがあります。
今回の舞台であるキューバ近海は、メキシコ湾流よりもカジキの種類が2種類多いのですが、あとは同じ魚達が棲んでいます。

それでは、のに物語のデータを紹介しておきます。

サンチャゴ

年齢不詳。「この男に関するかぎり何もかも古かった。ただ目だけがちがう。それは海と同じ色をたたえ、不屈な生気をみなぎらせていた。彼の内には希望と自信とがまだ燃え尽きていない。」

釣った魚の大きさ

18フィート(5.4m) 1500ポンド(675kg)

魚種

カジキ。英名ブラックマーリン。日本名シロカワカジキかブルーマーリン、クロカワカジキと考えられる。

ファイト時間

出漁した日の昼頃にヒット。翌々日の昼に銛を打つまで48時間。その翌朝港に帰るまでサメとの死闘がある。

ボートの大きさ

推定16フィート(4.8m)

装備品

へさきに置いた水の入ったビン。
マストと巻き付けた、つぎはぎだらけの帆。
縒りの強い褐色の綱の入っている木箱。
綱の太さはエンピツ程。約6mmぐらい。
魚鉤(ヤス)
柄にロープのついた銛(モリ)
ナイフ
棍棒(コンボウ)2フィート半(75cm)
舵板と舵棒
餌箱(鰯とマグロ2つ。昨日のつむぶりとひらまさ)

仕掛

4本の綱(6mm)
①の餌は深さ40ヒロ(60m)つむぶりと鰯の房がけ
②の餌は深さ75ヒロ(112.5m)ひらまさと鰯の房がけ。
③の餌は深さ100ヒロ(150m)まぐろと鰯の房がけ。
④の餌は深さ125ヒロ(187.5m)まぐろと鰯の房がけ。
①②③は生木の枝に結んである。④は足に一巻きして指の間に綱を通してアタリを見る。

それでは、「老人と海」の一部を見ていきましょう

なるべく綱が垂直におりるようにボートを漕ぎながら潮の流れに船の動きを任せている。
最初のアタリがきた時(出漁した日の昼頃)
①そのとき、綱を見守っていた老人は、あの生木の枝の一つが、ぐっと傾くのを見てとった。
「よしよし」と彼はつぶやく「わかったよ」そういって、舟をがたつかせないように、そうっとオールをおさめた。彼は綱の方に手を伸ばし、右手の親指と人差し指でやわらかくそれをおさえた。引きも重みも感られない。彼は軽く綱をおさえたままでいる。
すると、またぐっときた。今度はまるで気を引いているような引き方だ。強さも激しさも感じられない。老人は軽く綱を持ったまま、それを左手で枝からそっとはずした。これでもう魚になんの抵抗も与えずに指の間から綱をいくらでもくり出すことができる。
しかし魚はまだ食いつかなかった。逃げてしまったらしく、ぜんぜん手応えがない。「逃げちまうわけはない」と老人はいった。「絶対、そんなはずはない、ただちょっとひと回りしているだけだろう。やっこさん、ひょっとすると、前に一度引っかかった経験があって、その時のことを思い出したのかもしれないぞ」なるほど、すぐかれは綱にかすかな手応えを感じた。いい気持ちだった。かすかな手応えが彼を満足させる。
が、次の瞬間、彼は何か手ごわいものを感じた。
たしかに魚の重みだ。
老人は綱をどんどん伸ばしていった。控えの巻綱の1本をほごしはじめる。それが指に間を徐々にすべり落ちていく。指先に抵抗はほとんど感じられないのだが、さっきの大きな重量感が老人にははっきり感じ取れていた。
②舟は北西に向かってゆるやかに流れていく。
③が、もぐる気になったら、どうしよう。底へもぐって死んでしまったら、どうしよう、困るなぁ。

ヒットから17時間後。

太陽が水平線にきらりとその頂をのぞかせる。
「やっと北へ向かって進んでいるなぁ」と老人はいった。

20時間後。

かれは綱をもっと張ろうとした。しかしそれはもう今にも切れそうなぐらい伸びていている。獲物が引っかかって以来ずっとそうだった。うしろへ反って引きに力を加えると強い手応えを感じた。もうこれ以上強く引くことはできない。ちょっとでも引いちゃいかん。と彼は思った。④うっかりひこうものならはりのかかっている切傷を大きくしてしまうだろう。そうすれば魚が跳ね上がった時、針が外れてしまうかもしれない。

22時間後。

ちょうどその時だった。魚は急に海底深くにもぐりこむ。
老人は不覚にもへさきに引きずり倒されてしまった。とっさに身を引いて綱をくり出したので助かったが、さもなければ、すんでんのところへ海の中に引っ張り込まれるところだった。
「やっ、だいぶ速度が鈍ったな。」と老人はいった。
マグロを食べた。

23時間後。

そのとたん、かれは左手に引きの変化を感じた。見ると水中の綱の傾斜がちがってきている。
「この舟より2フィートも長いぞ」老人は呆然としてつぶやいた。
つなはすさまじい速さで、しかもなんの乱れも見せずにすべりだしていく。魚はすこしもあわてふためいた様子がない。老人は両手で綱を引っ張り、それがあやうく切れそうになるところを巧みにさばいていた。かれにはわかっていたのだ。もし適度の引きを加えながら魚を逃がしてやらなければ、魚は綱を全部たぐり出して、あげくのはてには、引きちぎってしまうだろう。
昼ごろ、老人の左手のひっつりがなおった。

31時間後。

シイラを釣って食べた。飛魚も2匹胃の中にあった。オールを2本ともに結びつけ舟に抵抗をつけた。その後老人も少し眠った。

36時間後。

突然魚が何度も、何度もジャンプを繰り返した。
その後、飛魚を食べた。

41時間後。

老人が海に乗り出して以来、三度目の太陽が昇る。そのころになって、魚はようやく輪を描いて回り始めた。
銛の用意はもうとうにできている。それには軽い綱がとりつけてあり、ぐるぐる巻きにして円いカゴの中にしまってあるがさらにその端にはへさきのつなぎ柱に結びつけてあった。
魚は輪を描きながらだんだん近寄ってきた。
老人は手元に引き寄せようとして全力をあげている。瞬間、魚はぐらりと横腹を見せたが、すぐ立ち直って再び輪を描きはじめる「おれは、やつを動かした」と老人は声を上げた「とうとう動かしたぞ」が、またもや老人は気を失いかけた。が、全力をふりしぼるようにして大魚にしがみついている。
老人は綱を放し、片足でそれをおさえたかと思うと、銛を思い切り振り上げ全身の力をこめて、しかもそれまで身内に残していた以上の力をこめて、それをぐさりと魚の横腹に突きたてた。ちょうど胸ビレのうしろあたりだった。そこが老人の胸ぐらいの高さに浮き上がっていたのだ。とがった鉄の棒が魚の体にもぐりこむ手ごたえが感じられた。彼はそれに覆いかぶさり全身を預けて相手の胴体深くぐいぐい突っ込んでいった。魚がヒットしてから48時間後のことである。

それでは、アンダーラインの①~⑤について御説明します。

アンダーライン①

魚のアタリを告知をする装置ではリールでは「クリックボタン」にあたります。ラインを引き出すと「ジー」と音が出ます。
この生餌での釣りは、ルアーつりとは処方がが違います。生木の傾きを見てとったら、ラインをどんどん送り出して肴がえさを呑み込んでから、フックアップします。

アンダーライン②

リールでは「ドラッグ」という装置が引き受けます。
この場合ボートを曳いていく力より、綱の郷土が大きいのでOKですが、一般的にビッグゲームの場合、ドラッグ値が9kgでラインが引き出される設定が多いです。

アンダーライン③

特にカジキつりの場合、ヒットしてから初期の段階でカジキを興奮させると一気に潜り込んで死んでしまう場合があります。200m以上潜られると水圧と魚の重みで沈んで行きますのでランディングできない場合もあります。

アンダーライン④

ビッグゲームの場合、時間がかかってくると針のかかっている傷口が大きくなって針が外れる(フックオフ)が多くなります。対策は、ラインをゆるめないことです。

アンダーライン⑤

ビッグゲームの場合、大きな魚は、弱ってくると浮いてきて時計回りに回りだします。

次回は、トローリングのタックルについてです。