最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その1)

ボート釣りの聖地、友ヶ島に異変が……


以下は、大阪湾にあるマリーナにボートを置いている友人による話。「最近友ヶ島周辺では釣りがでけへん。トローリングをしていると、水産庁の指導船が来て『このあたりはトローリングは禁止です』と言う。それではと、ボトムフィッシングに切り換えてやっていると、今度は加太漁協の船が来て『ボトムフィッシングもダメだ。この海域から出て行ってくれ』と言う。とにかく最近はトラブルが絶えず、漁船とプレジャーボートがどなり合っている光景もよく見るし・・・。加太漁協ではネズミ色の『はやて』というイカツイ船を造って、プレジャーボートを追い回しよるねん」


私は、この友人の話を開いて少なからずショックを受けました。友ヶ島は、大阪湾の南の出入口、淡路島と紀伊半島の付け根の間の紀淡海峡を形作る、沖の島と地の島からなる島です。

大阪湾周辺のプレジャーボートにとって、友ヶ島は釣りの聖地であり、古くからボートによる日帰り釣りコースになっていました。十数年前、勝浦ビルフィッシュトーナメントが行われる前は、ここから南へ紀伊水道を通って行くプレジャーボートはほとんどありませんでした。

私はこの由々しき事態を重く考え、事の真相を追究する決心をし、加太漁協の役員さんにお話を聞いてみました。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その2)

加太漁協で伺った実際の現状


加太の港の中央付近、加太大橋のたもとにある近代的な美しい建物が加太漁協でした。対応していただいた役員さんは非常に温厚な方。こちらの質問にも丁寧に応対していただきました。

私の考えていたイメージとはまったく違います。というのも、二十数年も前から「加太の漁協は恐いぞ、いつも船に石を積んでいて、モメたら石ぶつけよるねん」という風評があったからです。

役員さんのお話では、加太は昔からマダイの一本釣りが有名で、上り下りのマダイやタコがことに美味しい所。 昔から海峡の潮の迫った海域で三角のスパンカーを立てた何十隻もの漁船が、練りながら順に潮上へ移るという勇壮な光景が見られましたが、当時から地元のプレジャーボートとのトラブルもあったそうです。


また、最近は週末ともなると、狭い海域に100隻を越えるプレジャーボートがやって来てアンカーを入れるので、漁網や漁具の破損する被害が続出。漁業者は仕事にならないとも言います。

さらに前述の「はやて」は、そもそもプレジャーボートを追い回す船ではなく、漁業者同士の違法行為を監視する目的で造られた監視船とのこと。

現在はプレジャーボートのあまりの増加で、「はやて」は毎週末に出動。スピーカーでテープを流しながら「加太漁協からのお願い」というチラシを渡して協力を求めているというのです。

漁協の対応はあくまで紳士的で、たくさんの漁具などの被害届も見せていただきました。また、チラシにも書かれていましたが、田倉崎沖にはプレジャーボートのために大型漁礁を開放してくれています(1カ所ですが)。

ただ、実際の現場では「はやて」には若い漁業者の方も交替で乗船され、プレジャーボートから「海は皆のものやないか」「あんたらに追い払う権利があるのか」といったことが言われ、押し問答になることも少なくないようです。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その3)

食糧難の時代にできた現行漁業法の矛盾点

私は帰ってから、チラシの内容をいちいち漁業法に照らして調べて見ました。

すると、彼ら(加太漁協)には、釣りを目的としてその海域に侵入したわれわれプレジャーボートや、他の漁業者までも排除できる権利があることが分かりました。それどころか、民法第709条の「不法行為による損害賠償請求権」や漁業法第143条の「漁業権又は漁業協同組合の組合員の漁業を営む権利を侵害した者は二十万円以下の罰金に処する」「前項の罪は告訴を持って論ずる」といった法律もあり、トラブルの際には、これらが適用される可能性があるのです。

私自身、恥ずかしながら漁業法を正視したこともなく、ほとんど無知でした。漁業権というのは、ただ「漁業者が漁業を営む権利だ」とぐらいに考えていたのです。しかし、実際の漁業権とは、「行政庁の免許により、一定の水面において排他的に一定の漁業を営むことを得る権利」であるわけです。

また漁業権には、定置漁業権、区画漁業権、共同漁業権の3種類があり、今回の友ヶ島の海域には、共同漁業の中の「第3種共同漁業飼付漁業」「つきいそ漁業」によって加太漁協に漁業権が設定されいるわけです。

そのほか、「非漁民などの漁具漁法の制限」という法律もあり、現行漁業法の上では、われわれプレジャーボートの市民権はないに等しい状況です。

とりあえず、われわれのすべきことは、マナーの向上と漁業者とのトラブルをなくすること。その上で、現代の価値観の変化と昭和24年--食糧難の時代に制定された現行漁業法の矛盾点を追求し、プレジャーボートの市民権を得るための運動を展開すべきではないかと思うのです。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その4)

漁業権を理解しているオーナーはほとんどいない


一方、ボート釣りを楽しむオーナーさんたちや公共マリーナの責任者といった方たちの話はどうでしょうか。周辺海域の実情と現行の漁業権などについてあらためて考えてみたいと思います。

まず、私は友ヶ島周辺のボートオーナーさんたちの話を聞こうと、加太の目と鼻の先にある「和歌山マリーナシティヨット倶楽部」にお邪魔してみることにしました。お話を伺ったのは大型のスポーツフィッシャー「シレーヌ」のオーナー、奥村典生さん。いろいろなお話が出ましたが、奥村さん自身は、「昔からあの周辺はトラブルが多いのであまり近づかないようにしている」とのこと。また、同じマリーナに所属しているヨットの方が、知らずに加太海域でアンカーを入れたところ(子供に釣りをさせてやろうと思ったそうです)、「ボロクソになじられて最後には犯罪者扱いされた」といいます。

和歌山マリーナシティヨット倶楽部のクラブハウスでは和歌浦漁協の組合長さんと県の水産課の職員を講師に招き、勉強会も行われているようです。マリーナシティヨット倶楽部は和歌浦湾の奥に位置し、和歌浦湾はシラス漁-通称バッチ網業といわれる曳網漁業の盛んなところ。プレジャーボートと操業中のバッチ網船団との事故も少なくないそうです。


この海域で遊ぶベテランオーナーの方はよくご存知なのですが、バッチ綱漁の船団に出合った際には、その網船の後ろを横切ることは厳禁。網船の船速は遅く、その後方は、ワイヤーロープと網が500~600メートルにも達します(和歌浦湾の場合)。後方を横切ろうとして目測を誤れば非常に危険です。こういったことを知らないオーナーも多く、結果、トラブルの原因の1つとなることも少なくありません。勉強会は、こういった漁業者とプレジャーボートとの無用のトラブルを回避する意味で開かれているようです。

他のマリーナにボートを置いているオーナーさんたちにも電話でいろいろ訊ねてみました。曰く「昨年は大阪湾内でハマチがどんどん釣れたので友ヶ島へは行く機会がなかったけど、同じマリーナのオーナーからトラブルのことは聞いている」「友ヶ島の南側では釣りをしてはいけないというけど、遊漁船がお客を乗せて釣ってるやないか!なんでワシらが釣ったらあかんねん」などなど、皆さん、それぞれに加太での釣り事情には関心や反感があるようです。ちなみに、この加太の遊漁船に関して、加太漁協に問い合わせたところ「加太漁協の組合員は遊漁船や民宿を兼業している人も多く、当然、組合員であれば釣りはできる」ということでした。

その他、「漁業権」や「共同漁業権」(漁協や連合会のみに免許が与えられ、排他的に漁業を営む権利)といわれるものを理解されているボートオーナーやマリーナ関係者は、一部を除いてほとんどいないことも分かりました。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その5)

沿岸では事実上釣りができない!?


和歌山マリーナシティには、現在2つのマリーナがあり、ひとつは前述の「和歌山マリーナシティヨット倶楽部」、もうひとつは「和歌山マリーナ」という第三セクターで運営されている公共マリーナです。

この公共マリーナの責任者は半田さんという方ですが、非常に熱心な方で、県の水産課と連携して「和歌山下津港周辺案内図」というものを、プレジャーボートの道案内のために作って配付しています(右の図)。

私は、この「和歌山下津港周辺案内図」を見たとき、出来の良さに感心した反面、内心唖然としました。この案内図を見ると、沿岸のすべてといえる区域で、共同漁業権が設定されているのです。また、大阪のボートオーナーたちが良く行く淡路島の南、沼島周辺も共同漁業権が設定されているとのこと。ということは、同海域ではほとんどボートフィッシングが禁止されているといっても過言ではありません。

また、漁業法第51条には「非漁民等の漁具漁法の制限」という法律があり、さらにこの中に「遊漁者の漁具、漁法の制限」というものがあります。この場合「遊漁者」とは趣味で釣りを行う人のことで、船舶(ゴムボート及び手漕ぎボートを含む、次項において同じ)を使用して行う釣り(竿釣り、手釣り、曳縄釣り)は禁じられているのです(曳き釣りに関しては知事の許可を隻けた船舶を使用して行うものに限られる)。

基本的に私たちボート乗りの釣りは国に認知もされてないわけで、暗い気持ちになってきます。 和歌山マリーナの責任者、半田さんと県の水産課で連携して作った「和歌山下津港周辺案内図」.マリーナのオーナーさんなどに配られている同案内図を見ると、ほとんどの沿岸部に「共同漁業権」が設定されているのが分かります。

しかしながら、その中の細則、「都道府県海面漁業調整規則により調整を行うのが適当な事項」で、(1)遊漁者の漁具、漁法の制限については、現行の都道府県海面漁業調整規則(以下「調整規則」という)の非漁民の漁具・漁法の制限の規定を再検討の上、地域の遊漁の実態により必要ある場合には実態に即した規定の整備を行なうものとする。(2)船舶を使用して行なう遊漁であって、漁業との調整上または水産資源の保護培養上必要あるものについては調整規則により都道府県知事に対する遊漁船の届け出等の制限を考慮し、さらに船舶、漁具、漁法、区域または時期についての制限を併せて考慮するものとする、とあります。

要するに私達のボートフィッシングは、100パーセント閉ざされている、というわけではないのです。今はとにかく法律違反は行わなず「全体のモラルが向上した時点で改めて漁業者と根気よく話し合う以外に方法はないでしょう(取材中、加太漁協の役員の方も「トラブルがなくなれば開放する漁礁の数を増やす用意がある」と話していました)。ただ、個人的には、時短や国民のレクリエーションの育成、リゾート法などが騒がれて久しい今日、この漁業法の存在自体に釈然としないものを感じるのも事実です。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その6)

ボート乗りの認識不足もトラブルの原因


海上保安庁や県の水産課にも足を運んでみました。その上で総合的に現状をふまえながら、ボートアングラーの危機管理と今後のあるべき姿、方向性を探りたいと思います。

基本的にプレジャーボートでの釣りは、休日を楽しむためのもの。それが釣りをして漁業者から怒鳴られたり、あるいはこちらから声を荒げて言い合いをしたりというのではせっかくの休日も台無しです。が、友ヶ島周辺ではこのようなことが現実に多数起こっています。これは、元をただせば昭和24年にできた漁業法をめぐるトラブルなのです。

そして、この漁業法を詳しく調べてみると、トラブルの大半はプレジャーボートのオーナーの認識不足からきていることも少なくありません。 大阪湾屈指の好漁場-友ヶ島は紀淡海峡に浮かぶ2つの島を指します。ここで近年漁業者とプレジャーボートのトラブルが頻発しています。

私自身、漁業法の中の「第3種共同漁業権」というものが「排他的に漁業を営む権利を持っている」ことを知らなかったことを、今では深く反省しています。そして、これらの法律を破った場合、「告訴」され、「20万円以下の罰金」に処される可能性もあるのです。陸上でも、いろいろ細かな規則や法律があったり、違反をしないように予防的な防犯活動や指導などが行われますが、これは海でもまったく同じこと。

プレジャー関係の方々に過去いろいろ取材をして感じるのは、漁業者や海に関わる仕事をされている方々に比べて、まだまだ「無知で甘い」と言わざるを得ないということです。

以前にも述べましたが、たとえば大阪のボートオーナーが良く行く淡路島の南、沼島周辺など、同海域のほとんどに共同漁業権が設定されていることを知っているオーナーさんは、ほとんどいないというのが実情でしょう。


最近、友ヶ島周辺では釣りができない!?(その7)

立場を尊重し合って主張すべきことは主張する

海の「法律の番人」として、保安庁の意見も伺うことにしました。訪ねたのは「田辺海上保安部」。ちなみに、ここは友ヶ島周辺の海域を管轄し、巡視船『ふじ』や『みなべ』を配備する紀伊水道最大の保安庁の出先機関です。

そこで私が受けた印象としては、はっきり言って「あくまでお役所的」。友ヶ島の件は「同海域でのトローリングは禁止」「共同漁業権の設定された海域へは立ち入らないこと」という紋切り型の答えしか得られません。私は、「現実的な、我々プレジャーボートの今後の方向性を指導して欲しい」と申し上げたのですが、具体的な回答はついにいただけませんでした。現実に起こっている漁業者とプレジャーボートオーナーとのいざこざに関しても「事件などに発展すれば動けるが、現状では手が出せない」とのこと。収穫らしい収穫はほとんどなかったのが実情です。

私たちの遊ぶ海の世界は、数少ない罰則規定の中で、いざ罰金などに発展した場合、いきなり数十万円といった高額な支払いを要求される場合がほとんど。そして本人がその罰則規定を知らないという場合も少なくありません。このようなことを、私はボートオーナーの「危機」ととらえています。ですから、私たちもこのような罰則.規定などの知識を得ながら危機管理に努め、守るべきことは守り、堂々と主張すべきは主張しながら、プレジャーボートの地位向上を目指すべきだと思うのです。

県の水産課を訪ねたときも、「水産課は往々にして漁業者を守るための課と思われがちですが、決してプレジャーボートをおろそかにすることはありません」と明言されていました。

友ヶ島周辺へ釣りに行くこと自体は違反ではありません。しかし、共同漁業権が設定されたところへは入ってはいけません。ただ、もし間違ってその場所へ入ってしまって加太漁協の監視船に警告されても、すみやかにそこから退去すれば良いのです。このようなとき、無用な言い争いや小競り合いなどのトラブルを起こさないようにすることが、まずは私たちのあるべき姿でしょう。このようにしてプレジャーボート全体のモラルが向上し、お互いの立場を尊重し合えるようになって初めて、同地区の開放云々といった交渉の場が持てるようになると思うのです。

「漁業制度からみた漁業の種類」の分類の中で、今回の加太漁協が取得している免許漁業(排他的に漁業を営む権利)の中に「第3種共同漁業権の築磯漁業等」があります。また、自由漁業(免許漁業、詐可漁業以外の漁業)の中には「曳縄釣漁業等」があります。曳縄釣(トローリング)に関しては、漁業法第51条の「非漁民の漁具漁法の制限」という法律の中でも禁じられていますが、これは県によってはうるさいところとあまりうるさくないところとまちまちなのが現状です。さらに曳縄釣りは県知事の「特別採捕許可」というものがあればOKとなっており、日本各地で行われているビルフィッシュトーナメントなどは、トーナメントごとにこの特別採捕許可をもらう傾向になっています。

このように、いざ規則・法律の類を調べ出すとかなりやっかいで複雑です。しかし、決まりは決まりですから、プレジャー側も「知らなかった」では済まされないのです。もちろん、漁業法などはプレジャーボートがほとんどなかった時代にできた法律ですから、我々の存在はあまり認められていませんが、別に卑屈になる必要などはまったくありません(県の水産課でも我々プレジャーボートの存在は認めているのですから)。大事なことは、今ある規則をしっかりと認識し、その上で主張すべきことは主張していくということでしょう。お互いのことを理解しようとせずに、ただ闇雲に騒ぐだけでは、トラブルこそ増えても何の解決にもならないのです。