ビッグゲーム

2.マグロを釣る 

■一生に1本、夢の巨魚 クロマグロ

   紀伊半島でのマグロ釣りは、例年正月明けからカツオが本格化する3月頃までの間です。この時期は西高東低の気圧配置が多く、北よりの風が強い時期です。地元の漁師さん達は西高東低の気圧配置が崩れて北風がゆるむ合間をぬって出漁します。

この時期のマグロのポイントは、本州から見て黒潮の向こう側 (南側)の側沿域です。黒潮はここ10年ほどは潮岬南20マイルあたりに安定していますが、黒潮の幅を約40マイルとしますと、紀伊半島から約50~60マイルほど沖になります。そのため我々のようなプレジャーボートではその海域まで行くことはできません。私はもっぱら漁船に乗っけてもらっています。

マグロは、主にビンチョーマグロ(トンボシビ)、メバチマグロ(バチ)とクロマグロ(本マグロ)が釣れますが、ときには15キロもある大きな種ガツオがまじります。クロマグロは毎年1~2本、この曳き釣りで上がります。

紀伊半島ではマグロは勝浦漁港に水揚げすると価格が良く、大きいクロマグロは1キロ当たり2万円もするときがあります。200キロを釣ると400万円にもなります。日本の曳き縄漁の漁師さん達のほとんどが、カツオ釣りで生計を立てていますが、一生に1本このサイズのクロマグロを釣るのが漁師さん達の夢なのです。と、このように言うと「なんだ我々には無理じゃないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、我々にもマグロを釣るチャンスがないわけではありません。

5月から6月になると、四国の室戸岬沖では50キロから60キロのキハダマグロの水揚げが増えます。また紀伊水道の日の岬の少し南では大きなマグロがボイル(エサを補食しているところ)しているのが目撃されています。切目岬(日の岬南)の沖、水深30メートルくらいの瀬で、ジギングにて35キロのクロマグロが釣られたこともあります。

現在キハダマグロの日本記録(オールタックル)は、京都のチーム古都の水野武人さんが69.7キロを50ポンドのラインで釣っています。この時は私も同じボートに居合わせてリーダーを取らせていただきました。

この年(1999年)7月の串本のトーナメントの最中でしたが、この日はほかにも数本同じくらいのサイズが上がっていました。 『チーム古都』の水野武人さんが上げた69.7キロのキハダマグロ(串本ビルフィッシュトーナメント / 1999年7月)  

■フックアップが勝負 秘密兵器トバセ

まず巨大魚を釣るための最初の難関は、フッキング(針がかり)です。マグロは口が硬い魚なので、ロッド&リールで釣る場合は、ヒットするとただちに全速で200メートルほど(約10秒)船を走らせてフックアップさせます。ルアーで釣る場合と生餌で釣る場合では、フックアップの方法がまったく違います。

ヘミングウェイの小説『老人と海』に出てくるサンチャゴは、生飼にイワシや小さなマグロ、ヒラマサ、ツムブリなどを使い、生木の切り枝に仕掛けをひっかけて、生木のしなりでアタリ(ヒット)を見ながら、ヒットしたらロープを送り出し、魚が餌を十分飲み込んでから一気にロープをたぐってやわらかい内蔵にフックアップさせます。ロープも鉛筆ほどの太さですが、これは今回の仕掛けと同じです。

ルアー釣りの宿命として、硬い口にフックアップさせなければならないことが挙げられますが、曳き釣りでは「トバセ」という独特の切り糸の仕掛けを使ってフックアップさせます。

  トバセとは0.5ミリくらいのタコ糸(錦糸)を5本から12本ほど束ねたもので、3カ所ほどに使います。まず12本束ねたものをタカヤマの先端と仕掛けの間に、次に5本束ねたものを、センターリガー(ジャンボ竿)の根元、さらにロープの入った縄カゴのそばの船べりとロープの間に接続します。

魚がヒットした瞬間に12本のもの、そして5本のもの、また5本のものと順に「バシッ、バシッ、バシッ」と糸が切れていきます。切れてテンションがなくなり次の糸でテンションがかかる、また切れてさらに次の糸でテンションがかかる、その瞬間のテンションでフックアップさせるわけです。 左の細いロープの束が トバセ。これにテンションがかかると切れる。  

■大きさ、長さ、重さ 豪快なジャンボ仕掛け

 話は前後しましたが、紀州のマグロ釣りといえばジャンボ仕掛けというのが定番で、これはセンターリガーを使う仕掛けですが、ジャンボ竿と呼ばれる10メートルあまりで元径が10センチもあるセンターリガーを立て、70センチから80センチもある大きなヒコーキ(ジャンボ)を曳く仕掛けです。

ジャンボの手前には水面上を跳ねるルアーが3つ、そして大きくたくさんの水しぶきをあげるジャンボとその後ろ20ヒロ(30メートル)にルアー。仕掛けの全長は100ヒロ(150メートル)にもなります。

ジャンボ仕掛けは図(中央)の通りですが、A点、B点、C点、D点で4つのルアーが接続されています。巨大魚がヒットした場合は、どのルアーであっても、そのルアーの接続点(A~D点のうちどれか)まで引き寄せて、ほかに用意した縄カゴの縄に接続し直して使います。そしてほかの仕掛けを絡ませないため、船を止めて、船のバウ側で魚とやりとりするわけです。

ビンチョーマグロ(トンボシビ)は20キロ以上のものを「大トン」、7キロから8キロぐらいのものを「小トン」といいますが、今回の仕掛け図は中央のジャンボ仕掛け以外、左右のアウトリガーの竿バナ、2番手、3番手から流しているのはすべて「大トン用仕掛け」です。

1月から3月のベイトフィッシュは主にサンマ、そしてトビウオです。ルアーヘッドは、あわびやメキシコあわびなどが多用されます。ルアーの形状に関しては基本的には水中での動きの良い砲弾型(パレット)を使いますが、ジャンボ仕掛けの手前3つのルアーに関しては、すべてオモリを入れたイカベイトのみのものを使います。

上の仕掛けは、漁船での曳き釣りを前提に発展してきたものですが、その理論やシステムは我々プレジャーボートにとっても必ず参考になるはずです。  

■クロマグロの釣り方(友人横田さんの場合)

 紀伊水道では、ここ数年クロマグロがコンスタントに釣れています。50キロくらいまでのものですが、ジギング船の乗合や、チャーターをするアングラー達によって釣られているのです。秋から冬にかけて、また翌年の春まで釣れる可能性があります。
右の図のように、御坊火力発電所の沖合いもクロマグロのポイントとなっています。

 

右の写真のクロマグロは、私の友人、横田浮さんが昨年印南の漁船をチャーターして釣ったもの。手に持っているのが30キロクラス、床にあるのは40キロクラスです。彼は日本各地に遠征する大物釣師で、もちろんトローリングは達人。このクロマグロを釣ったシステムを紹介しましょう。

 タックルは80ポンドのトローリング用、リーダーはシーガー20号が50メートル、フックはイシダイ針14号。40センチほどのケプラの端を、ラインとリーダーにそれぞれ8の字結びでしっかりと結びます。これでクランキングリーダーとしてリーダーを最後まで巻き込めるわけです。クロマグロは、寄せてくるとかならず船の周りを回リだします。先のクランキングリーダーは、クロマグロが船の下に入ってしまわないように、一気に引き寄せてランディングするためのものです。

エサは生きたアジ(ライブベイト)で、頭と背ビレの間にフックをかけます。こうすると、どんどん潜って行きます。撒き餌も同様に生きたアジを使用。船は波にまかせて流しながら、撒き餌が船の下で固まらないように、ときどき船を動かします。このとき、数百匹、人によっては1000匹の生きアジを撒きます。ポイント図の付近で、撒き餌をしながら泳がせ釣りをしている船があれば、あまり近付かないようにしてください。

 その他の釣り方としては、ジギング船ではもちろんジグを使いますが、ミノータイプも多用します。ナブラが立つと、足の速い船はナブラに近付いて、ミノーなどをキャストすれば良いのですが、ナブラが消えて潜ってしまうとジグを使って深場のジギングするか、移動しながら大きめのシンキングタイプのプラグを使用します。そして、釣り場は沿岸の30メートルライン前後の浅場が多いです。

クロマグロを狙って釣り場にいる漁師さんもあります。彼らも一番ヒット率の高いのは、やはりソーダガツオだといいます。そこで、カツオの仕掛けを使ってルアーを2号から1.5号の小さなものに変え、まずソーダガツオを釣ります。次に、釣れたソーダガツオの腹を上にして小脇に砲えます。

 図にあるような針を使い、目と目を通したダクロン糸の両端にフックを掛け、数回ねじってから目の間のダクロン糸の下にフックの先を通します。タックルは50ポンドか80ポンドを使用します。また、カツオの曳き縄は10キロまでの魚が限度ですから、10キロ以上の魚を狙う場合は、ドラッグ装置のしっかりしたリールを使わなければランディングできません。

話をもどしますが、ライブベイトは生きているあいだはこの状態で数時間もつ場合もありますが、ベイトが死ぬと口が開いて潜らなくなります。

ほかにライブベイトがない場合は、死んだベイトの口を縫い付けて、リーダーとラインの間に潜行オモリを入れて曳きます。死んだベイトは字のごとくデッドベイトといいますが、ソーダガツオが余分に釣れたら、氷をきせて持って帰ってすぐに冷凍保管しましょう。新しいデッドベイトほど有効ですが、ポイントを変えれば、クエやサメ、それにメカジキも期待できます。ライブベイトやデッドベイトのトローリングスピードは3ノット前後が目安です。

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